「養護教諭」と「看護師」の違いとは?
  • 2023.11.15

「養護教諭(保健室の先生)」と「看護師」は何が違うの?看護師資格を持っていると養護教諭として働けるの?それぞれの資格の違いや職場の違いについて、疑問に思っている人も多いのではないでしょうか。

「養護教諭」と「看護師」では、それぞれ働く場所や仕事内容、サポートする相手はもちろん、必要な資格も異なります。また、それぞれ別の知識やスキルが求められるため、通うべき学校や勉強内容も異なります。よく間違えられがちですが、看護師免許を取得していても養護教諭免許状がないと養護教諭として働けないことはご存知でしょうか。

 この記事では、「養護教諭」と「看護師」の資格の違いについて、さまざまな角度から解説していきます。

目次

「養護教諭」と「看護師」の違い【働く場所・仕事内容】

「養護教諭」と「看護師」では、働く場所や仕事内容が異なります。それぞれの違いは次のとおりです。

働く場所の違い

「養護教諭」の働く場所は、小・中学校、高等学校です。学校の保健室で学校全体の保健に関わる専門的な業務を行います。つまり、養護教諭は「教育職員(学校の先生)」にあたります。学校には公立と私立がありますが、例えば公立の学校で働いている養護教諭は各自治体の教員採用試験に合格した「地方公務員」という扱いになります。

「看護師」の働く場所は、主に病院をはじめとした医療機関や保健・福祉施設です。看護師は、医師の指示のもとで補助的な医療行為や患者さんの介助などの業務を行う「医療従事者」にあたります。さまざまな働く場所があるうえに、今後も医療の需要が高まると予測されているため、看護師の資格があれば就職先に困りにくいと言われています。

仕事内容の違い

「養護教諭」と「看護師」では仕事内容にも大きな違いがあります。

 まず「養護教諭」の主な仕事内容は次のとおりです。

  • 学校保健情報の管理
  • 学校環境衛生の管理
  • 救急処置
  • 保健教育
  • 健康相談活動
  • 健康診断の立案・準備など
  • 伝染病予防対策・指導
  • 保健室の運営
 養護教諭の仕事は児童生徒の健康管理や健康教育、心のケアなどです。ケガや病気の児童生徒に簡単な手当てや、健やかな学校生活が送れるような環境づくりなどを行います。また、心の悩みを抱えた児童生徒の相談相手となり、問題解決のためのアドバイスやフォローをすることも大切な仕事の1つです。事務作業に追われることも多いと言われていますが、教員として児童生徒と数年単位で関わるため、児童生徒の成長を身近に感じられることがやりがいにつながるでしょう。

 続いて「看護師」は、医師の指示のもと、診察補助や治療補助、入院患者の日常生活のサポートなどを行います。具体的な仕事内容としては、次のようなものがあります。

  • 問診
  • 点滴・注射・採血
  • 与薬
  • 検温・血圧測定・脈拍数の測定
  • 患者移送
  • 入院患者の食事・入浴・排尿介助
  • 入院患者の座位訓練・体位交換
  • 夜間のナースコール対応
 看護師の場合、勤め先の病院や担当する診療科によって仕事内容も変わってきます。手術室看護師の場合は手術室で執刀医の補助をする業務もあります。人の命を預かる仕事として責任は重大ですが、患者さんの人生に大きく関わるからこそ、人の役に立てたという充実感は人一倍感じられる職業ではないでしょうか。

サポートする相手の違い

「養護教諭」と「看護師」では業務でサポートする相手の範囲も異なります。

「養護教諭」は働いている小・中学校や高等学校の児童生徒が主な対象です。幼少期から20代の青年期は、人として生きていくためのさまざまな能力や価値観を養う成長段階にあるため、児童生徒の成長のために教え導く場面も出てくるでしょう。

「看護師」は勤め先の医療機関や保健・福祉施設を訪れる患者さんを相手にするため、年齢や性別を問わず幅広い層に対応します。身体の異常で悩む患者さんと接する中で、患者さん一人一人のさまざまな生き方や価値観に触れることでしょう。

「養護教諭」と「看護師」の違い【必要な資格・知識・スキル】

「養護教諭」と「看護師」では、対応する相手や仕事内容が異なるため、当然必要な資格や知識、スキルも異なります。

必要な資格の違い

「養護教諭」になるには、養護教諭免許状の取得が必要です。養護教諭免許状の取得には、大学か短期大学、大学院を卒業し、養護教諭養成課程を修了しなければなりません。養護教諭免許状は教育職員免許法に基づく教員免許状の一種で、「一種免許状」「二種免許状」「専修免許状」の3つに分かれています。免許状によって働き口や仕事範囲が変わることはありませんが、それぞれ取得方法が異なります。

 養護教諭として学校で働くためには、教員採用試験を受けて合格しなければなりません。公立の学校に勤めたい場合は各自治体の教員採用試験に合格し、地方公務員として各学校に1名を基本に配置されます。一方、私立の学校で働く場合は、学校ごとの採用情報を確認し、学校独自の教員採用試験を受けて合格する必要があります。

「看護師」になるには、国家資格である看護師免許が必要です。看護師国家試験を受けるには、大学や短期大学、専門学校、養成課程校を卒業して看護基礎教育課程を修了し、受験資格を得なければなりません。

必要な知識・スキルの違い

「養護教諭」は、学校に通うすべての児童生徒の心身の発達や心の悩みへの理解のほか、ケガや病気をした際の救急処置の知識、保健教育や衛生管理など、児童生徒の健康教育に関する知識やスキルを身に付ける必要があります。また、すべての児童生徒に注意を払い、小さな変化にも気づく観察力や広い視野、児童生徒が安心して悩みを相談できるコミュニケーション能力も必要です。

「看護師」は、チーム医療が主流である現在の医療現場において、医師の指示を受けて動くだけではなく、看護師としての専門的知識を持って働くことが求められています。身体診査から患者の健康状態を評価し、適切な対応を判断するフィジカルアセスメント、診察補助や治療補助に必要な知識は看護師としての基本スキルになります。また、勤め先の病院や配属される診療科目に応じ、小児看護や在宅看護など、看護師としてさらに専門的な領域の知識やスキルを身に付けなければなりません。

「養護教諭」と「看護師」の違い【通うべき学校の違い】

「養護教諭」と「看護師」はそれぞれ必要な知識やスキル、資格を取得するために、通うべき学校も大きく異なります。

通うべき学校の違い

「養護教諭」としての知識や資格を得るには、法律で定められた養護教諭養成課程のある大学や短期大学で必要な科目単位を修得し、養護教諭免許状を取得しなければなりません。養護教諭免許状には一種・二種・専修の3つがあり、一種は大学(4年制)、二種は短期大学(2年制)、専修は大学(4年制)と大学院(2年制)を修了することで取得できます。例えば、養護教諭一種免許状を取得するためには、大学4年間で養護に関する科目ほか計5科目56単位に加え、施行規則第66条の6に定める科目8単位が必要です。二種免許状は、短期大学で養護に関する科目ほか計5科目42単位に加え、施行規則第66条の6に定める科目8単位が必要です。[注1]

「看護師」としての知識や資格を得るには、文部科学大臣もしくは厚生労働大臣が指定した大学や短期大学、専門学校で教育を受け、看護師国家試験を受ける資格を得て合格する必要があります。看護基礎教育課程がある学校は一般的に「看護学校」と呼ばれています。高校卒業から看護を目指すなら看護大学(4年制)や看護短期大学(3年制)、看護師養成所・専門学校(3年制)、中学卒業から看護師を目指すなら5年一貫制の看護師養成課程校と、4つの進路コースがあります。

[注1]広島県:養護教諭普通免許状の取得
www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/352497.pdf

勉強する内容の違い

「養護教諭」として働くためには、健康保健に関する幅広い知識が必要です。大学や短期大学の養護教諭養成課程では、養護学や小児科学をはじめ、小児保健学・精神保健学・養護活動・衛生学・公衆衛生学・救急処置などの専門的な知識を学びます。他にも教員としての一般教養を学ぶために、外国語・政治経済学・情報学などについても勉強します。養護教諭としての勉強は座学だけではありません。養護実習といって、連携先の小学校や中学校などで保健教育や保育室運営などの実践も必要となります。1回の養護実習期間は2週間〜1ヵ月程度です。

「看護師」になるためには、看護・医療の基礎知識ほか、患者さんを理解するための洞察力や根拠に基づいた看護計画の立案・実践力、医師・薬剤師・臨床検査技師らと連携して働くことができるコミュニケーション能力が求められます。看護学校では統計学・心理学・保健体育などの基礎分野を学んだあと、看護学・精神看護学・解剖学・病理学・栄養学・公衆衛生学などの専門分野など、対象看護に応じて学んでいきます。その後、総合分野にて基礎分野と専門分野で学んだ知識を連携先の医療機関などで実践し、看護師に必要なスキルを身に付けます。

「養護教諭」と「看護師」のどちらを選ぶべき?

 学校教員である養護教諭と医療従事者である看護師は、全く異なる仕事です。自分が何をしたいか、何をめざしているかによってどちらを選ぶべきか変わってくるでしょう。

「養護教諭」と「看護師」の違いを比較するほか、自分の性格や特性から、どちらが向いているのかを考えるのも1つの方法です。以下では、「養護教諭」と「看護師」、2つの仕事に向いている人の特徴をそれぞれ紹介します。

「養護教諭」に向いている人

 養護教諭に向いている人の条件として重要なのは、何よりも子どもが好きで、サポートをしたいという強い気持ちがあることです。

 養護教諭は保健室の先生として、学校にいるすべての児童生徒と関わり、健康管理や心のケアを行うのが仕事です。ケガや病気の手当てはもちろん、保健室に訪れた児童生徒の深い悩みからほんの些細な悩みにまで、優しく耳を傾けることが大切です。児童生徒が安心して悩みを打ち明けられる包容力のある人が向いています。また、児童生徒と信頼関係を築くためにコミュニケーション能力も必要です。

 養護教諭は児童生徒の健やかな学校生活や心身の成長をサポートするため、健康管理や保健教育、救急処置、心のケアほか、学校内の衛生環境管理などの重要な業務を行います。そのため、責任感と向上心を持って働ける人が求められます。

「看護師」に向いている人

 養護教諭と同様に、看護師もコミュニケーション能力や判断力、観察力が求められる職業です。さらに、看護師には高い協調性と責任感が必要です。

 看護師は患者さんやその家族の対応のほか、医師や看護師仲間、他の職種と連携し、医療チームとして協力し合いながら働かなくてはなりません。多くの人と関わる仕事のため、協調性のない人、個人主義の人には向いていません。そして、医療現場に従事し人の生命に関わる仕事である以上、看護師は携わる業務すべてに責任を持って取り組める人でなくてはなりません。どのような些細なミスであっても、場合によっては生死に関わる重大な事態を引き起こす可能性があるからです。

 医療施設には乳幼児から高齢者など、年齢や性別関係なくさまざまな人が患者としてやってきます。そのため、幅広い人と触れ合い、サポートをしたいという人は、養護教諭よりも看護師の方が向いているでしょう。

 また、看護師は勤務中、ほぼ立ちっぱなしで業務を行います。患者さんの介助や医療機器の持ち運びなどの力仕事も多く、想像以上に体力を消費する職業です。夜勤もあるため、生活サイクルが不規則になりがちな点も含め、日頃の健康管理をしっかり行える人、体力に自信がある人が向いています。

「養護教諭」と「看護師」それぞれの違いを把握して自分に合った選択をすることが大切

 比較されることが多い「養護教諭」と「看護師」ですが、仕事内容や働く場所、必要な知識やスキル、資格、通うべき学校などが大きく異なります。どちらも責任感やコミュニケーション能力、判断力が必要な仕事ですが、「養護教諭」は子ども好きで包容力がある人、「看護師」は協調性があり体力に自信がある人に向いています。

「養護教諭」は養護教諭免許状の取得、「看護師」は看護国家試験に合格する必要があり、それぞれ法律に基づいた必要課程のある大学や短期大学、専門学校などを卒業し、必要な課程を修了する必要があります。養護教諭か看護師かで進路を迷っている場合は、それぞれの違いを把握したうえで、自分がめざす将来や適性などを総合的に考慮して判断しましょう。

 関西福祉科学大学の健康科学科では、将来養護教諭をめざす人に向けて、必要な知識と専門的な技能を修得するための育成を行っています。詳しくは公式ホームページをご覧ください。

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