正式名称:厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)「自律神経機能異常を伴い慢性的な疲労を訴える患者に対する客観的な疲労診断法の確立と慢性疲労診断指針の作成」研究班

慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome: CFS)とは

 CFSとは、これまで健康に生活していた人が対人的・物理的・化学的・生物学的な複合ストレスがきっかけとなり、ある日突然原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降強度の疲労感と共に微熱、頭痛、脱力感や、思考力の障害、抑うつ等の精神神経症状などが長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなるという疾患である。

 1984年、米国ネバダ州インクラインという人口約2万人の村で、原因不明の疲労患者の集団発生が報告された。その数は200名にもおよび、村の人口の約1%にも達するものであった。当時、アメリカではEpstein-Barr(EB)ウイルス感染症が微熱や倦怠感などと関連していることが注目されていたことより、米国疾病対策センター(CDC)がEBウイルスを含めたさまざまな病原体についての調査を行った。しかし、この不可解な疲労病態の存在は認めるものの、その明らかな病原体は見出すことは出来なかった。そこで、この病因・病態の解明を行うために、今後研究を行う対象症例を明確にするための基準(working case definition) 1)をl988年に設定した。これが、その後世界中で慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome: CFS)の患者を診察する際に広く使われるようになったCDC(Holmesら)のCFS診断基準である。

 我が国でも1991年には厚生労働省(旧厚生省)の疲労調査研究班(班長:木谷照夫)が発足、翌年にはCDCのCFS診断基準を参考に、一般の診療で用いることのできる厚生省CFS診断基準2)が作成され、病因・病態の解明に向けたさまざまな活動が行われてきた。

 1999年、上記研究班が一般地域住民4,000名を対象に疫学調査(有効回答数3,015)を行なったところ、1/3を超える人々が半年以上続く慢性的な疲労を感じており、その半数近くが日常生活や社会生活に何らかの支障をきたしており、CFSも0.3%存在していることが明らかになった3)。この成績を元に慢性的な疲労によって引き起こされる日本における経済損失を算出したところ、医療費を除いて年間約1.2兆円に及ぶことも判明3)、慢性疲労は医学的な観点のみならず経済的損失という観点からも大きな社会問題であることが示されている。

文献
1. Holmes GP et al.: Chronic fatigue syndrome: a working case definition. Ann Intern Med 108:387-389,1988
2. 木谷照夫、倉恒弘彦. 慢性疲労症候群. 日本内科学会雑誌81:573-582,1992
3. 倉恒弘彦. 慢性疲労症候群の疫学、病態、診断基準 日本臨床65:983-990,2007

 

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