中川が好きと言えない理由は、科学できる。

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中川真央は、背が高い自分をあまり好きではなかった。
175cmの女の子は、どこにいてもちょっと目立ってしまう。
友達もたくさんいるし、楽しい高校生活だ。でも一日に一回は、身長のことを考えてしまう時があった。
うらやましいと言われることも多い。その瞬間はうれしくもなるけど、またすぐに劣等感に変ってしまうのだった。
「身長が高いからこそバレー部でレフトをやらせてもらえている、しかも一年生で。」何度も前向きに考えようとした。
でもやっぱり、背が高い自分を好きになれなかった。
中川にはずっと気になっている男の子がいた。
並んだことはないけど、何か自分の方が大きい気がした。
だから絶対に近くを歩きたくなかった。近づいたら、事実が明らかになってしまうから。

「え、考えたこともなかった。」
帰り道、中川の親友である170cmの少女は驚いた。 八木歩、玉手高校バスケ部。
「妹にめっちゃ憧れられてるし、そもそも考えたからといって身長は変わらない。
まだ高1、むしろもっと大きくなるかもしれない。」
その知的ないたずらっ子のような話し方が、中川はとても好きだった。
常にさばさばしている。小さなことを気にしない。
彼女と話すとすっきりするし、元気になれた。「その上で、相談あるんだけど。」八木は急に切り出した。
「好きな人ができた。同じ高校にいる。それ以上は言えない。」
八木のたたみかけるようなカミング・アウト。中川は、もう身長のことなんかどうでもよくなっていた。
確かに、大きくなったらどうしよう、とか思いながらこの先ずっと生きていく方が嫌だ。
今の自分を好きでいよう、そう思った。
そして中川は八木の好きな人についてもっと知りたかったが、八木はもう、多くを語らなかった。
「もうその話はナシ。何かあったら報告する。」何となく気まずくなって、二人とも黙ってしまった。
黙ったまま、しばらく歩き続けた。「じゃあ、また明日!」八木はいつもの感じに戻って、帰って行った。
八木の笑顔で中川の心も明るくなる。同時に、小さな罪悪感が浮上してきた。
八木は打ち明けてくれたのに、自分は隠したままだ。「実は私も、好きな人いる。」
今さらなタイミングで、中川真央はつぶやいた。

中川は何故好きと言えないのか。山田冨美雄(関西福祉科学大学 心理科学部 学部長 就任予定)

高1の中川真央が心を寄せる同級生小野圭介は、自分より背が低いかもしれない。真央はそんな心配から、面と向かって好意を伝えられません。なぜなのかクールに分析してみましょう。

真央は今、バレー部のエースアタッカーとして充実した高1生活を送っています。誰からも愛され、とてもハッピーです。今の幸せを壊したくない。そんな消極的な気持ちが立ちはだかっているようです。好きな男子に好きだと言い、近づきたい、仲良くしたい。真央の圭介に対する「接近」願望は強い。だがそれ以上に、親しくなればなるほど、自分の中の嫌な特徴が圭介に気づかれ、破局する。そんな恐れが「回避」する力を生み、「接近」願望より強く働いているのです。

この様子を現代心理学は「ヤマアラシのジレンマ」現象と呼びます。近づけば相手の針が自分に、自分の針が相手に突き刺さるので遠のく、遠のくと近づきたい願望が募り近づく。接近すると痛いので避ける・・・と続く「葛藤」状態なのです。さて、このヤマアラシのジレンマ状態を解消する良い手立ては何でしょうか?心理科学の手法で考えてみましょう。まず真央は本当に背が高いのか?体格の全国調査資料によると、身長が175cm以上の日本人女性は16歳で1%未満なので、統計的には有意に高いといえます。一方男子では3割が175cm以上。男子からみれば、175cmは少し高い方という印象でしょうか。ましてバスケ部の圭介です。背の高い女子を嫌うとは限りません。むしろエースアタッカーは背が高くて当然と思うのが素直な推測。まだまだ背が伸びる年代であり、かつ男子の成長は女子を凌ぐので、高校を卒業時には背の高さなど問題にはならないと予測されます。嫌われるかもしれないという不安は杞憂だったと気づくに違いありません。

客観的に自分を観察し、さらに相手の立場になって考えてみる。そうすることで、ハッピーな結果がうまれますよ。何、楽観的だって?そう、ハッピーになれる人の多くは楽観主義者だというデータがあります。もちろん客観的なデータをクールに分析してから、ハッピーでホットな結果を予測したいものですね。真央がさらにハッピーになるためには、何が必要でしょうか。オープンキャンパスでは、このテーマについてポジティブ心理学の立場からお話しますよ。

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中川真央の心を、徳性の強さの観点から分析しなおしてみましょう。
「自分より背が低いかもしれないので、好きと言えない」と思う気持ちは、人を思いやる優しさ「愛他性」が強いことを示しています。震災の後、多くの日本人は東北の人々の苦労を思い、優しい気持ちでいましたよね。真央はその「愛他性」が相当強いようです。愛する人に自分の気持ちを伝え、自分だけのものにしたいという願望を「自制心」が抑えています。バレーで鍛えた「勇気」をバネに、自制心を緩めて果敢にチャレンジして欲しいですね。

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175cmの女の子
八木のカミング・アウト