正式名称:厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)「自律神経機能異常を伴い慢性的な疲労を訴える患者に対する客観的な疲労診断法の確立と慢性疲労診断指針の作成」研究班

日本疲労学会による新たなCFS診断指針

 世界各国では、CFS診断に向けたさまざまな基準の見直しが行なわれてきているが、わが国では旧厚生省疲労研究班が2000年に解散して以降は、文部科学省の研究班が慢性疲労の病因・病態の解明に取り組んでおり、厚生労働省には慢性疲労症候群を取り扱う研究班が存在していなかった。このため、日本におけるCFS診断に関してはやむを得ず1991年に作成された厚生省CFS診断基準がそのまま使用されてきた。

 しかし、その後の臨床研究にてCFS患者にみられる異常が1つ1つ明らかになってきており、また疲労病態をより客観的に評価できるようないくつかの手法もみつかってきたことより、慢性疲労を診療している多くの医師からCFSをより客観的に診断できるような診断基準へ改定する要望が高まってきた。

 そこで、2006年6月、日本疲労学会に慢性疲労症候群診断基準改定委員会(委員長:倉恒弘彦)が発足し、日常診療に当たっている医師が慢性的な疲労を訴える患者を診療する際の診断手順を分かりやすく示した診断指針を取りまとめ、日本疲労学会シンポジウム「慢性疲労症候群診断基準 改定に向けて」(2007年6月30日)において新たな慢性疲労症候群診断指針(表1)が発表された1)

ア)第一段階: 前提Ⅰ-1.除外すべき疾患の有無の確認
第一のステップは、疲労を来たす器質的疾患の除外であり、表4に示された基本的臨床検査を行い、表5に記載されている臓器不全・慢性感染症・炎症性疾患・神経疾患・代謝内分泌疾患・原発性睡眠障害・双極性障害・精神病性うつ病などを除外する。

イ)第二段階: 前提Ⅰ-2.診断保留の必要性の有無、併存疾患の有無
次のステップとして、上記疾患以外で長期にわたる服用が必要な疾患で治療中の場合、その影響による疲労状態でないかどうかを判断する。内服の理由となっている原疾患が軽快しても疲労状態に変化がないなど、原疾患と疲労病態の因果関係が否定されるまでは、診断を保留すべきである。
但し、その経過観察期間中でも必要に応じて疲労病態に対する一般的内科治療を併用しても良い。その際に注意すべきことは、あくまでも現在治療中の疾患をコントロールすることが優先であり、疲労病態に対する加療が本来行われている治療の妨げになる場合には、本来の加療を優先すべきである。

ウ)第三段階: 前提Ⅱ+前提Ⅲ 疲労症状、自覚症状、他覚所見の確認
第三のステップとして、疲労に関する自覚症状項目、他覚的所見項目の該当数を確認する。これまでの手順ですべての基準を満たしている場合には、臨床症候から見てCFSと判断される。いずれかの条件を満たしていない場合は、これまでの厚生省CFS診断基準2)ではCFS(疑診)と診断していたが、本診断指針ではCDCのFukuda診断基準3)と同様にICF(特発性慢性疲労)と診断する。
これは、日本における保険診療ではCFS(疑診)という診断名はあくまで疾病の疑いとして捉えられ、病態確認のための検査は認められるが、原因不明の慢性疲労に対する治療行為は承認されないことに配慮したものである。

 尚、この日本疲労学会による慢性疲労症候群診断指針の解説の中でも記載されているが、1年間かけて行われた慢性疲労症候群診断基準改定委員会の検討では、いくつかのCFS患者に特徴的とも思われる異常は認められたが、CFS診断基準に客観的なマーカーとして取り入れることのできるような検査所見は感度と特異度の観点から確認することはできず、今後数年をかけてCFS診療に携わっている日本各地の施設が協力して、実際に診療しているCFS患者について共通の検査方法で検証し、あらためてCFS診断基準について検討することが決められ、平成21年度に発足した厚労省疲労研究班の活動につながっている。

文献
1. 特集号 慢性疲労症候群診断基準の改定に向けて 日本疲労学会雑誌3(2):1-40,2008.
2. 木谷照夫、倉恒弘彦. 慢性疲労症候群. 日本内科学会雑誌81:573-582,1992
3. Fukuda K et al.: The chronic fatigue syndrome: a comprehensive approach to its definition and study. Ann Intern Med 121:953-959,1994.

 

 

表:日本疲労学会による新たな慢性疲労症候群診断指針


6ヶ月以上持続する原因不明の全身倦怠感を訴える患者を診たとき、以下の前提Ⅰ~Ⅲに従って、臨床症候を十分吟味検討し、CFSについて判断する。

前提 Ⅰ.
1. 病歴、身体所見、臨床検査(表2)を精確に行い、慢性疲労を来たす疾患(表3)を除外する。
2.
A) 下記疾患に関しては、当該疾患が改善され、慢性疲労との因果関係が明確になるまで、CFSの診断を保留にして経過を十分観察する。
1) 治療薬長期服用者(抗アレルギー剤、降圧剤、睡眠薬など)
2) 肥満(BMI>40)
B) 下記の疾患については併存疾患として取り扱う
1) 気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)、身体表現性障害、不安障害
2) 線維筋痛症
前提 Ⅱ.
以上の検索によっても慢性疲労の原因が不明で、しかも下記の4項目を満たす。
1) この全身倦怠感は新しく発症したものであり、急激に始まった。
2) 十分な休養を取っても回復しない。
3) 現在行っている仕事や生活習慣のせいではない。
4) 日常の生活活動が、発症前に比べて50%以下となっている。あるいは疲労感のため、月に数日は社会生活や仕事ができず休んでいる。
前提 Ⅲ.
以下の自覚症状と他覚的所見10項目のうち5項目以上を認めるとき。
1) 労作後疲労感(労作後休んでも24時間以上続く)
2) 筋肉痛
3) 多発性関節痛 腫脹はない
4) 頭痛
5) 咽頭痛
6) 睡眠障害(不眠、過眠、睡眠相遅延)
7) 思考力・集中力低下
以下の他覚的所見は、医師が少なくとも1ヶ月以上の間隔をおいて2回認めること。
8) 微熱
9) 頚部リンパ節腫脹(明らかに病的腫脹と考えられる場合)
10) 筋力低下


◎前提Ⅰ、Ⅱ、Ⅲすべてを満たしたときに、臨床症候からCFSと判断する。
◎前提Ⅰ、Ⅱ、Ⅲすべてを満たす訳ではないが、原因不明の疲労病態がある場合、特発性慢性疲労(Idiopathic Chronic Fatigue, ICF)と診断し、経過観察する。

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