平成21年度厚生労働省研究費補助金
自律神経機能異常を伴い慢性的な疲労を訴える患者に対する
客観的な疲労診断法の確立と慢性疲労診断指針の作成

分担研究報告書

名古屋大学医学部附属病院総合診療科における
慢性疲労を主訴とする患者診療の体制整備

分担研究者 伴 信太郎 名古屋大学医学部付属病院総合診療科 教授

研究協力者 西城 卓也  名古屋大学医学部附属病院総合診療科

研究要旨

本研究では、全国レベルでの研究を実施するため、慢性疲労を主訴として来院する患者の診療手順を整備した。

研究方法:診療に関与する医師、漢方医学専門医、臨床心理士、研究補助員のコンセンサス形成。

結果:名古屋大学医学部附属病院総合診療科では、「慢性疲労」を主訴とする患者の診療を2段階で行う体制を整備した。
第一段階:慢性疲労症候群患者を1)器質的疾患(疑)、2)精神的疾患(疑)、3)慢性疲労症候群(CFS)(疑)、4)分類不能に群別する。
第二段階:CFS(疑)群を対象に、研究班で統一して実施する予定の各種指標を患者さんの同意の上実施する。

A.研究目的

慢性的に疲労を訴える患者の中に慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:以下CFS)の患者が含まれている。CFSは、慢性的に(定義としては6ヶ月以上)疲労を訴える一群の人々の中に存在する原因不明の症候群で、病脳期間は年余に渡り、未だ客観的な診断法、確実な治療法は確立されていない。

CFS専門外来ではない我々の外来を受診する患者を対象にしてこれまでの研究で、'慢性的な疲労を訴える患者'の中の約40%がCFSで、約40%が精神疾患、約5%が器質的疾患で、残りは病態が特定困難で経過観察が必要な疾患と分類される。
われわれは既にCFS患者について、9つの遺伝子の特徴的な発現パターンによる客観的診断法を開発した(Saiki T, Ban N et al. M ol Med 1 4 , 599-607, 2008)が、この遺伝子発現パターンに関しては、他施設からの報告とは未だ一貫した結果が得られていない。
一方、治療に関しては、我々は漢方薬を用いた治療法で、ある程度満足すべき結果を得ている(5段階評価で上位2区分の改善度68%、上位3区分の改善度86%)(胡 ら、第57回日本東洋医学会総会(大阪), 2006.6,25)。

しかし一方で、漢方治療が奏効し一定の治療効果を見せても、患者が何らかの器質的な異常を疑い続け活動を回避することで、廃用症候群をきたすケースや、逆に周囲の意見や環境に配慮しすぎて過活動になって疲労困憊するケースが存在することを経験してきた。そこで、認知行動療法(Cognitive-Behavior Therapy: CBT)に関する予備的な調査を実施し、「活動の回避」、「症状への固執」、「症状へのコントロール感の欠如」といった認知が治療を妨げる重大な要因であるとの結果を得て、漢方療法で改善不十分な場合には、CBTを導入を試験的に開始している。

本研究は、我々の施設で'慢性的な疲労を訴える患者'の診療をより体系的に、客観的指標を持って評価できるような診療体制の確立を目指したものである。

B.研究方法

本研究では、下記の関係者による合議によって診療体制の整備を行った。
●診療医師:伴信太郎、西城卓也
●漢方診療専門医:胡 暁晨
●臨床心理士:
・田中愛(名古屋大学大学院 医学系研究科 健康社会医学専攻・総合管理医学講座 総合診療医学 大学院生)、
・藤江里衣子(名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 心理発達科学専攻 精神発達臨床科学講座 大学院生)
●コンサタント精神科医:近藤三男(こんどうメンタルクニリック)


C.研究結果

第一段階:
'6ヶ月以上の慢性的な疲労を訴える患者'の診療は、下記のように群別する。その為の診断手順は下記の通りとする。

図に示した診断情報Aとは、
1) 病歴と身体所見の収集
2) CFSの診断基準との照合
3) QOL-26
4) SDS
5) PS(Performance status:厚生省研究班作成の活動度測定尺度)の評価 (表2)
6) 自己評価採点(100点満点で何点か答えてもらう)
7) 下記の諸検査を実施
・ 血液検査(表1参照)
・ 検尿
・ 便潜血検査
・ 胸部X線
・ 腹部超音波検査
・ 遺伝子発現パターンおよびRNAマーカーの探索のための採血
8) CFS診療に経験の長い精神科医へのコンサルテーション

第二段階:
CFS(疑)群を対象に、研究班で統一して実施する予定の各種指標を患者さんの同意の上実施する。


D.考察

名古屋大学医学部附属病院総合診療科には、'6ヶ月以上の慢性的な疲労を訴える患者'が訪れるが、その病態は概ね約40%がCFSで、約40%が精神疾患、約5%が器質的疾患で、残りは病態が特定困難で経過観察が必要な疾患と分類される。
患者の負担を最小限にし、将来のCFSをできるだけ客観的に診断できるようになるための研究に資するためには、'6ヶ月以上の慢性的な疲労を訴える患者'をまず1)器質的疾患(疑)、2)精神的疾患(疑)、3)慢性疲労症候群(CFS)(疑)、4)分類不能に群別し、次いでCFS(疑)群を対象に、研究班で統一して実施する予定の各種指標を患者さんの同意の上実施することが最善と考え、診療体制の整備を行った。

E.結論

名古屋大学医学部附属病院総合診療科では、「慢性疲労」を主訴とする患者の診療を2段階で行う体制を整備した。

G.研究発表

該当なし

H.知的財産権の出願・登録状況(予定も含む)

該当なし