厚生労働科学研究費補助金(こころの科学研究事業)
(分担)研究報告書

自律神経機能異常を伴い慢性的な疲労を訴える患者に対する客観的な疲労診断法の確立と慢性疲労診断指針の作成

社会環境や生活習慣における疲労関連・危険因子調査の準備

研究代表者 倉恒 弘彦 関西福祉科学大学教授
研究分担者 酒井 一博 財団法人労働科学研究所所長

研究要旨

 社会環境や生活習慣における疲労関連・危険因子調査を実施するための準備をすすめた。労働科学研究所に調査チームを立ち上げ、文献調査に基づく先行研究レビュー、疫学調査項目の検討、疫学調査手法の検討、などのほか、産業現場において広範囲の業務を取り上げ、働き方の現状と疲労状態についてヒアリング調査を実施した。これらの成果を、次年度の疫学調査に反映させることによって、所期の目的である疲労予防方策の策定に勤める。

A.研究目的

 社会環境とりわけ労働環境ならびに長時間労働や夜勤・変則勤務への従事など、近年の働き方、さらに生活習慣における疲労関連・危険因子を解析し、疲労予防の方策策定に寄与する。

B.研究方法

上記目的を達成するために、平成22年度に疫学調査を実施するが、本年度はその準備として、労働科学研究所に調査チームを立ち上げ、文献調査に基づく先行研究レビュー、疫学調査項目の検討、疫学調査手法の検討、などを繰り返し実施した。この調査チームでの検討過程で、近頃のワークシステムと労働者・技術者の働き方(雇用条件、就労条件、勤務条件、作業条件など)の変化、ならびに昨今のストレス状況をとらえないと、労働者・技術者(必要に応じ使用者、管理者も含む)の疲労解明、さらに疲労予防策の検討は難しいとの意見に基づき、産業現場において広範囲の業務を取り上げ、働き方の現状と疲労状態についてヒアリング調査を実施することになった。本年度取り上げた産業と作業ならびにヒアリング調査の協力者は以下の通りであった。
農業(群馬):食肉牛の生産、経営主、妻、後継者(家族経営協定を締結)の3名とグループヒアリング。
製造業(群馬)中小企業3社、若手経営主と単独ヒアリング(2社)、3名(社長、専務、総務部長)とグループヒアリング。
コンビニエンスストア(群馬):経営主と単独ヒアリグ(1社)。
コールセンター(東京):ベテランオペレータと単独ヒアリング(1社、2名)。
介護(沖縄、福島、東京多摩):介護、事務職員とグループヒアリング(1施設(訪問介護職員を含む)、4名)、介護、看護、栄養、ケアマネージャー(1施設、5名)と単独ヒアリングならびに施設長、管理者とのグループヒアリング(2名)、介護職員と単独ヒアリング(1名)。
ダンプカー運転者(群馬):単独ヒアリング(1名)
保育士(群馬):単独ヒアリング(1名)。
特定郵便局局長(群馬):単独ヒアリング(1名)。
子育て中女性パート(千葉):単独ヒアリング(2社、2名)
2010年3月15日現在で、調査の進捗状況は以上の通りであるが、ヒアリングにおける獲得情報は非常に重要であると判断できるので、n(エヌ)増し(継続調査)を計画する。
(倫理面への配慮)

C.研究結果

① 文献検索の結果、本分担研究の意図に合致する先行研究をあまり発見することができなかった。むしろ、オリジナル研究として、すすめていくことが重要であるとの確認ができた。
② 学術文献は少ないが、最近2年間の国際同時不況の影響を多角的に取り上げたルポルタージュ方式の単行本は多く刊行されている。これらの内容は玉石混淆の感が強いが、なかには本研究をすすめるうえで、重要な社会科学的な視点を提供する資料も多々あった。
③ ヒアリング調査に基づくケーススタディ1 製造業中小企業経営主:2008年のリーマンショック以降の不況の影響をまともに受けた。最悪時には、その少し前の売上高の1割と状態が数ヶ月間継続をした。何とか切り抜けられたのは、政府の雇用調整助成金を活用したからである。経営をどうするか、従業員への説明責任をどう果たし、理解をどう求めるか、夜も眠れないほどのストレスであった。現在の売上高はピーク時の7割程度まで復活した。もう大丈夫と認識している。大手自動車メーカーとの下請関係の見直しをすすめるつもりでいる。発注元との力関係を変えられるような技術力アップと、思い切った経営方針の転換を図るような(経営者としての)開き直りが必要であるという認識にまでとうたつすることができるようになった。
 ヒアリング調査によって約2年間の売上高推移、工場内の人員調節の実績、安全衛生成績などの提供を受けることができた。
④ ヒアリング調査に基づくケーススタディ2:ヒアリング調査においてコンビニエンスストア経営主より、24時間、年中無休体制を可能にする勤務の組み方に関する情報開示を受けた。店主(経営主)とその妻、後取り(息子)の3名が交代で、全時間をカバーできるようなシフトを確立した上で、繁忙時間帯を勤務年数が長く、信頼できる従業員を割り当てながら、徐々に主婦パート、学生アルバイトなどを割り振っていく方式を採用しているようである。
 群馬県高崎市郊外の中規模店舗であるが、経営主家族3名のほかに、約20名の従業員によって、24時間、年中無休体制を確立している。経営主の1ヵ月間の勤務時間(残業を含め)情報を得ることができたので、業務活動と睡眠サイクルの分析ならびに疲労状況の記述などができるようになった。
⑤ このほか、次年度へ向け、Webアンケートによる情報収集ができるような環境整備をすすめた。

D.考察

① 次年度の疫学調査の実施に当たっての基本的な準備をすすめた。調査項目については、1月29日班会議で報告したように、骨子はできあがっている。この骨子案に班会議でコメントのあったように、過去の疫学調査との比較ができるような内容にすることと、ヒアリング調査によって知り得た情報を調査票に反映させることが課題として残っている。
② それとは別に、近年の労働者、技術者の働き方と疲労・ストレスの関係を明らかにするために、本年度実施したヒアリング調査は継続して行う予定でいる。教員、株ディラー、システムエンジニア、医師、看護師、長距離(長時間)運転者、観光バス運転者、ほかがターゲット。

E.結論

 疲労予防の方策を検討する上で、疲労・ストレスをつくり出す背景要因を明らかにしておくことが重要である。最終的には疫学調査によって疲労の促進要因の確定を行い、予防策を策定するが、そこまで行き着くプロセスにおいては、ヒアリング調査も有効であるので、継続していく。

F.健康危険情報

 

G.研究発表

1.論文発表
なし
2.学会発表
酒井一博、松田文子、竹内由利子、水野有希、池上徹、経済不況のもとでの働き方変化と労働者のストレス・疲労、日本人間工学会第51回大会へ登録済み(2010年6月、北海道大学)

H.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む。) 

1.特許取得
なし
2.実用新案
なし
3.その他
なし